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PRODUCTION NOTE
脚本家と友人との雑談から生まれた
警察コード“999-トリプルナイン”をめぐる犯罪劇

マット・クックが初めて脚本を担当した『トリプル9 裏切りのコード』のインスピレーションを得たのは、砂漠を車で走り抜けている最中、フェニックス警察の麻薬おとり捜査官をする友人と経験談を交換し合っていたときだった。「軍隊にいたことのある僕が戦争の話をしていたら、彼が“999-トリプルナイン”について話し始めたんだ。それは何なのかと聞くと、彼は“最優先の警察コードだ”と説明した。銃撃戦で警官が撃たれたとする。そこから“トリプル9”が発信されると、警官たちは自分が今やっていることを中断し、街の至るところから撃たれた警官のところに集まってくるんだ。そして基本的に犯人を捕まえるまで止めない。そこで僕は友人に“街の残りの事件はどうなるんだ?”と聞いてみた。すると彼は“そうだね。基本的には警官がいない状態になるんだ”と答えた」。

この話にドラマチックな可能性があふれていることに気づいたクックは、ロサンゼルスの家に戻ってすぐに本作の概要を書き始めた。「忠誠心というテーマからアイデアが膨らんだ。警官仲間から要請があればどうするのか。仲間のためにどのくらいのことができるのか。そして次に、その論理を反転させてみた。その場合、最悪の可能性とは何かとね」。

クックは、「脚本を書き終えたとき、監督は誰がいいかと聞かれた。ジョン・ヒルコートが最初にして最後の選択だった。ジョンが脚本を読んでOKしてくれたときは、天にも昇る心地だったよ。彼は既成概念に囚われず、物語を変化に富み、思慮深いものにしてくれる監督だ」と語る。

裏切りと仲間意識という昔ながらのテーマに、強烈なバイオレンスを加味した本作は、腐敗した権力構造を内側からえぐり出す都会派サスペンスだ。「観客は予想もしなかったひねりと展開、そしてリアルで血の通ったキャラクターたちに根差したクライム・アクションの面白さを理解し、味わってくれると思う」とヒルコート監督は語る。

実際の軍人や警官のもとで学んだ
実力派俳優たちの実践的な役作り

ジョン・ヒルコートが監督に決定したことで、並外れて優れた俳優たちが魅力を感じて集まってきた。その多くが現代劇のこういったジャンルには、滅多に出演したことのない俳優たちだった。特殊部隊の兵士からギャングのリーダーに転じたマイケル・アトウッド役のキウェテル・イジョフォーもそのひとりだ。

2014年夏の撮影開始に先立つ1ヵ月半前、イジョフォーは戦闘技術を学ぶために、スタントコーディネーターのミッキー・ジャコマッツィ、元米海軍特殊部隊隊員マーク・ステファニックとともに訓練を受けた。「ちょっとしたブートキャンプのようだった。1週間に3回、彼は何千発と銃を発射し、戦闘時の異なる身のこなしを学び、あらゆる武器を体験した。キウェテルは素晴らしい変身を遂げたよ。当初、彼は基本的な質問をしていたが、6週間後には完璧に訓練された暗殺者のように見えた」と、ジャコマッツィは証言する。

実直で融通の利かない警官のクリス・アレン役を演じたケイシー・アフレックは、リサーチのため、アトランタの警官たちの中に入っていき、ギャングの暴力と闘う数人の警官と知り合いになった。アフレックが語る。「ギャング対策班の人たちはとても賢くて、僕が予想もしなかったレベルで物事が機能する方法を理解している。彼らは仕事に没頭し、仕事に命を捧げているんだ。彼らと一緒に過ごして、このキャラクターのことをより理解できるようになった」。

ロシア系の悪女という異色の役柄に挑んだ
ケイト・ウィンスレットのカリスマ性

脚本のマット・クックは、本作のために新鮮な驚きをもたらす悪役を考え出そうとしていた。そうして思いついたのが、イタリア系やアイルランド系のマフィアでもメキシコの麻薬カルテルでもない“コーシャー・マフィア”と呼ばれるギャングだった。クックが説明する。「かなりリサーチを行い、パワフルなロシア系イスラエル人の犯罪者が、武器の密売やその他の犯罪で刑務所に大勢いることがわかった。彼らは大金持ちだが、どういうわけかあまり知られていない。それにロシア系イスラエル人の犯罪組織は、ひとりの人間によって動かされていることもわかった。リーダーは謎めいていて、『ユージュアル・サスペクツ』のカイザー・ソゼみたいな存在なんだ」。

冷酷非道な犯罪組織のボス、イリーナ・ヴラスロフを演じるのは、アカデミー賞女優のケイト・ウィンスレットだ。彼女はこの手のアクション映画に出演した経験はほとんどないが、ロシア語のアクセントで話すイリーナの心の闇を深く掘り下げるチャンスに抗しきれなかった。

ジョン・ヒルコート監督はウィンスレットがセットに現れた瞬間、彼女の強烈さに圧倒されたという。「イリーナ役には崇拝の念を起こさせ、この物語のどのキャラクターよりもパワフルな女優が必要だった。ケイト・ウィンスレットはキャラクターに全身全霊を注ぎ込む女優だが、同時に彼女はイギリスの演劇界出身だから、言葉のアクセントにもきめ細かいこだわりを持っていた」。

迫力に満ちたアクション・シーンを彩る
大都市アトランタのロケーション

「ジョン・ヒルコート監督はリアリズムを志向していた。だから僕たちは、できる限りリアルなアクションを作らなくてはならなかった」とスタントコーディネーターのミッキー・ジャコマッツィは語る。CGを意図的に避けながら、美術デザイナーのティム・グライムスと協力した彼は、強盗シーンと高速道路での追跡シーンにおいて、アトランタの不規則に広がる都会の風景をフル活用した。

ジャコマッツィは赤いダイパックの焼夷弾が高速道路で爆発する、狂乱のアクション・シークエンスの演出を特に誇らしく思っている。「彼らは急ハンドルを切って別の車と正面衝突しそうになる。それからキウェテルが出てきて、車をカージャックする。アクションが次々に起こるんだ。銃撃、車の衝突と爆発。スタントマンにとっても、アクション映画のファンにとっても、これ以上ないほど最高のシーンだよ」と、ジャコマッツィは話す。

クライマックスのカーチェイス・シーンには、ベテランのスタントマン、マイク・ジョンソンの運転技術が生かされた。ジョンソンはウディ・ハレルソンの代役を務め、フォード車のクラウンビクトリアでアトランタの交通網を猛スピードで走り抜ける。ジャコマッツィは語る。「彼は何があっても止まるつもりなんかない。街を走り抜けるクレイジーなマイクの車を相手に、優れたドライバーたちが妙技を披露する。本当にエキサイティングだったよ」。

もともと本作の舞台はロサンゼルスだったが、それより馴染みのないアトランタのロケーションで起こる気骨あふれるアクションは、観客を強烈に引きつける。ヒルコート監督がその成果を語る。「ロサンゼルスやニューヨークで都会派サスペンスをもう1本作るよりも、アトランタで撮影したほうが新鮮だ。こういう世界は何度も見てきた。でもアトランタというロケーションを使うことで、このジャンルが再び活気づいたんだ」。

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